地球上の生物種の大量絶滅について
地球上の生物はおよそ40億年の進化の歴史の中でさまざまな環境に適応し、現在3,000万種の生物が存在していると言われている。私たちを取り巻く地球の生態系は、生物が活動を続けてきた長い歴史の上に成立しているものであり、一度失ってしまうと回復には気の遠くなるような時間が必要になる。人類出現以前に過去地球上で起きた生物の大量絶滅は5回あったといわれているが、これら人間活動のない中での大量絶滅には数万年〜数十万年の時間がかかっており、平均すると絶滅した種数は一年間に0.001種程度であったと考えられている。一方人為的活動によって引き起こされている現在の生物の絶滅は、過去とは桁違いの速さで進んでいる。1975年以降は、年間4万種程度の生物が絶滅しているといわれている。
(出典:環境省、平成22年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 第3章 生物多様性の危機と私たちの暮らし−未来につなぐ地球のいのち)による
人類出現以前の大量絶滅の要因はいずれも気候変動である。生物にとって気候などの環境条件は、その生物の生死のカギを握っている。人類出現以前に気候変動を引き起こした引き金は、例えば周期的な太陽照射変動、突発的な隕石衝突、火山活動などであった。地質時代の気候変動と大量絶滅はすでに大部分が研究され、年代なども確立されているので、興味のある方は出典に当たってほしい。
(出典:"A Factor Analytic Description of the Phanerozoic Marine Fossil Record" J. John Sepkoski, Jr. Paleobiology Vol. 7, No. 1 (Winter, 1981), pp. 36-53)
図はWikipediaより引用; 灰色部分が大量絶滅を最初に示したSepkoskiのデータ
間氷期に入ってからの現在は地質時代と異なり、ほとんどが人為による種の絶滅である。過剰な採取や捕獲による種の絶滅や、産業革命以降の二酸化炭素の大量排出が人為的気候変動である地球温暖化を引き起こしている。国際自然保護連合(IUCN)が公表しているレッドリストは現在絶滅が危惧されている生物種を調査したものである。
国際自然保護連合(IUCN)が発表したIUCNレッドリストによると、評価対象の26,000種のうち現在27%の種が絶滅危惧種とされ、これは年々増加している。絶滅の危機に追いやる要因は、生息地の破壊が最も大きく、そのほか、狩猟や採集、外来種の持ち込み、水や土壌の汚染など多岐にわたる。例えば評価を行った哺乳類のうち25%、両生類のうち40%、鳥類のうち14%、針葉樹植物のうち34%、サンゴ礁のうち33%が絶滅の危機にさらされている。
また、テネシー大学の研究者がサイエンス誌に発表した研究(Stuart L. Pimmほか, 1995, サイエンス)によると、現在進行している生物種の絶滅率は、人類が繁栄し始める前の100倍〜1000倍のオーダーに達しているとされ、現在絶滅が危惧されている生物種が今後100年で実際に滅びると、将来の絶滅率は10倍になると推定している。
そして今、空気中の二酸化炭素濃度の上昇が生物種の存続に深刻な影響を与えている。今世紀の大量絶滅の予測について、オーストラリア国立大学の研究者Andrew GliksonがCO2 Mass Extinction Of Species And Climate Change (二酸化炭素が引き起こす大量絶滅と気候変動)と題して、以下のような内容の警告を発している。
化石燃料を燃焼させて埋蔵エネルギーを取り出し続けてきたことにより、地球上の環境は劇的に変化した。大気中の元々の二酸化炭素含有量は歴史時代以降570GtC(ギガトン・カーボン)だったが、産業革命以後人類は370GtCの二酸化炭素を埋蔵燃料から大気中に開放してしまった。この二酸化炭素は海水に容易に溶け込み、海洋生物種の多くを絶滅に追い込む力を持っている。体液の酸性化が炭酸塩の殻の生成を妨げるだけでなくタンパク質の合成も妨害され、受精率も低下する。
新生代をさかのぼると、古第三紀の後半の漸新世以降(33.9Ma)、空気中の二酸化炭素濃度が500ppm以下になり、陸上動物とくに大型哺乳類が繁栄し始めた。中新世、鮮新世と時代が進むに連れて南極の氷床が発達し、北極海の氷やグリーンランドに氷床ができた頃(2.8Ma)には空気中の二酸化炭素レベルは180〜280ppm程度だったとされる。このような低二酸化炭素環境の中でホモサピエンスが出現したのである。地球環境の様々な要因が約3000万年かけて空気中の二酸化炭素濃度を引き下げて人類を出現させてくれたにもかかわらず、その結果生まれた人類が18世紀の産業革命以後、たった200年で二酸化炭素濃度を元に戻しているのは皮肉なことである。
この200年で地球の気温は0.8℃上昇した。このまま二酸化炭素濃度が上昇していくとどうなるだろうか。大気中の二酸化炭素濃度の上昇は、温暖化、乾燥、植生の燃焼による正のフィードバック効果(暴走)を引き起こし、より多くの二酸化炭素を放出するようになる。極地の氷床が融解すると、地下に蓄えられていたメタンが地上に放出されるが、これも二酸化炭素と並ぶ温室効果ガスである。融解水はより多くの氷を溶かし、白い氷が反射(アルベド効果)していた赤外線太陽エネルギーを液体の水は吸収するようになり、ますます温暖化に拍車がかかる。
気温4.0℃の上昇で南極氷床がすべて融解し海水準は数十メートル高くなると言われている。現在の大気中二酸化炭素濃度は南極氷床の安定限界(約500ppmとされている)に迫っている。この閾値を超えてしまうと、氷床を再形成することはほとんど不可能であると言われている。現在の空気中二酸化炭素上昇速度の2.0ppm/yearは、暁新世・始新世境界(55.8Ma)に記録されていた火山噴火由来のピーク0.4ppm/yearを軽く超えているのである。
大気中の二酸化炭素濃度上昇と温暖化の結果、様々な気候変動が生じている。大気のエネルギーが激しいハリケーンを生み、中緯度の高圧ゾーンでの気圧の上昇を起こし、気候帯は低緯度(極地側)へ少しずつシフトしている(事実、台風は以前フィリピンや台湾付近で発生していたが、最近では沖縄や大東島付近で発生し、日本列島付近で最も猛威を振るう展開を繰り返している)。また南ヨーロッパ、南オーストラリア、南アフリカなどの温帯地域の砂漠化が進行しており、乾燥した森林がビクトリアやカリフォルニアで大火災に襲われている。