微細藻類の生産力
主に陸上では植物が、海洋では微細藻類が太陽エネルギーを吸収して生態系の出発点となっている。微細藻類は通常、赤潮やアオコという形でしか目にすることはなく、その生産力について感覚的に把握することは難しいが、ここではそれを陸上植物と比較して考えてみたい。地球全体の陸上植物の現存量(バイオマス)が、炭素量で5,000〜6,000億トンC(炭素量で示した単位)であるのに対し、微細藻類の現存量はわずか10億トンC に過ぎない。確かに飛行機から地上を眺めると、陸地のいたるところに緑が広がる様子が見えるのに対し、海洋上に緑の水溜りを見つけることはほとんどない。ところが、食物連鎖で、光合成生物の一段上にいる動物の現存量を陸と海で比較してみると、不思議なことに陸上で5〜6億トンC、海洋で4〜5億トンCであり、ほぼ同程度となっている。
この謎を解く鍵は、回転率にある。すなわち、陸上植物は一年生草本から樹齢数千年の樹木まであるが、この間、生産した有機物を蓄積させている。微細藻類は1週間程度で世代が変わってしまうので、この世に送り出された生命体もすぐに消費あるいは分解され、現存量としてはほとんど残らないのである。一方、驚くことに、光合成生物による有機物の年間生産量は、陸上で500〜600億トンC、海洋上で400〜500億トンCと推定されており、海洋上では顕微鏡サイズの小さな光合成生物によって、私たちの想像をはるかに超える生産が日々活発に行われていることになる。(倉橋,小柳津(2013)『応用微細藻類学』成山堂書店.)